artist file @ 山崎青樹(Seiju Yamazaki)
 
 

天の恵み 地の祝福
山崎青樹 いづれは消えてゆく自然のいのちを慈しみ、祖父は草や木を用いて染める技法に名を与えた。子は自らの生命を注ぎその精髄を究め、孫たちは新しい時代へと受け継ごうとしている。草木染とは、自然とともにしか生きてはゆけない人間の後世に残し伝えられてゆくべき優れた精神活動による工芸遺産である。
美を伝える織物
作家 川端康成
近年は草木染と称するものも多いが、それだけに蕪浅粗雑悪も入りまざるそのなかで山崎さんの染織は清流の貫く美しさである。理想と控求に殉じたような父の精神を、青樹さんらは伝え、新鮮を加えたのである。青樹さんらの優雅で素朴な草木染は、たとえ小さいきれでも、じつに心がゆきとどいている。感覚の確かさと愛情の深さがある。古い美しさが新しい美しさで見あきることがない。日本の色と文様が微妙に織りなされて、地味なようでいて花やかである。やさしいようでいて強いのである。伝統のよく生かされている一つの例が、ここに見られる。長い年月の苦労を経て今日に来た。青樹さんらの草木染を見て、私たちはありがたいと思う。
昭和44年東急百貨店『第五回 草木染染織展』によせて


古人の心を心としての染色
草木染研究所 山崎青樹
草木染の染材料には草根木皮など漢方薬との共通のものが多い。植物に含まれている諸物質が薬用になると共に染色にも利用されたのである。そのためにこの染色は古くから防虫、殺菌の役をしてきたものであった。また、たとえ染まるものでも有害植物などは決して使用しなかった。身につけて体のためによいもの、それが必然的に繊維を傷つけない染色になった。経験の累積によって得た人智の限りがそこにはある。思えば父・斌(あきら)の跡を継いでこの草木染一筋の道を歩みだしてからは研究と製作に明け暮れした日々であった。限りない色の世界に魅せられたのであるが、これからも果てしなく続く遠い道ではある。 山崎青樹作品
山崎青樹
山崎青樹 略歴
1923 東京都渋谷に生まれる。父・斌(あきら)は小説家にして染色研究家。植物染料による染色を始め、それを初めて「草木染」と名付ける。青樹は幼いころから絵が好きで十二歳で日本版画協会展に出品した作品が入選。日本画を野田九浦と宇田荻邨に師事する。
1946 長野県佐久郡前山村に父、斌とともに月明手工芸指導所を設け、草木染研究所を併設する。
1956 群馬県高崎市に草木染研究所を移す。本格的な草木染一筋の生活に入る。
1971 インドの染料植物の調査のためインド各地をめぐる。以後も南米、東南アジアの諸国を訪ね染色を調査。
1977 群馬県重要無形文化財に指定される。
1980 東京国立博物館大講堂にて講演「草木染について」。
1983 黄綬褒章を受ける。
1986 日本画院幹事。この年、世界で初めて単独の植物による緑色の染色(若葉染)に成功。
1988 東京国立科学博物館にて「草木染展」。
1995 フランス「国際ウォードインジゴ会議」にて講演。作品を出品。
1999 古代の藍色である山藍による緑色染を発見。

現在 高崎の工房にて創作、研究。
御子息である和樹、樹彦も染色家として活動中。

著書 『草木染色を極めて五十年』、『古代染色二千年の謎』、 『草木染染料植物図鑑』、『続草木染染料植物図鑑』、『木綿染の基本―草木染技法全書』(いずれも美術出版社刊)  他 二十冊以上



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